第82回 姹女求陽、元神現れる——心猿護主、魔鬼を降す
八戒が洞に潜入して手ひどい目に遭うなか、悟空は蠅に化けて三蔵の居場所を突き止め、ついには赤い桃に姿を変えて妖精の腹の中から大暴れし、三蔵を救い出す計画を仕掛ける。
八戒が穴の縁から足を踏み出し、するすると下りていった。暗闇の中を勘だけで進むこと半刻、ようやく灯明の光が見えてきた。洞の内部は広く、石の壁に松明がいくつも灯され、奥には御殿のような造りが続いていた。
門の前に小鬼たちが二列に並んで番をしている。八戒が堂々と歩み寄り「妖怪ども、主人はどこにいる」と声を上げた。小鬼たちがぎょっとして「だれが妖怪だ」と怒り出した。「お前たちではないか」と八戒が返すと、小鬼たちが一斉に棍棒を振り下ろした。八戒が釘鈀を振るって数匹を追い払ったが、奥の小鬼まで一斉に出てきて十数本の棍棒が雨のように降り注ぎ、八戒はたまらず穴の出口へと逃げ戻った。
悟空と沙悟浄が「どうだった」と出迎えると、八戒が頭をさすりながら「やつらを妖怪と呼んだら打ちかかってきやがった。師匠の姿も見えなかった」と報告した。
悟空が「お前は礼儀を知らぬから叩かれるのだ」と言い、一計を案じた。「今度は別の手で行こう」と言い、八戒に「またやつらの所へ行って、今度は丁寧に挨拶するのだ。奶奶(おばさま)とでも呼びかけてみよ」と教えた。
八戒が不服そうに下りていくと、今度は笑顔で門の前に立ち「奶奶方、お邪魔します。道に迷った旅の僧ですが、一夜の宿を」と頭を下げた。小鬼たちが「なんと太った坊さんだ」と笑いながら奥へ取り次ぎに行った。
しばらくして戻ってきた小鬼が「奶奶がお通しするようにと」と言い、八戒は奥へ案内された。広間に座っていた妖精——あの松林で助けた女——が八戒を見て「どちらからお越しで」と聞いてきた。八戒が探りを入れながら話していると、妖精の側近の老婆が「奶奶、早くお支度を。素筵(精進の宴)を設けて唐の御坊と盃を交わしましょう。三日以内に花嫁入りの礼を整えなければ」と耳打ちした。
八戒がそれを聞いて「ははあ、師匠を無理やり婿に取ろうとしているのか」と察し、宴の始まる前に「失礼」と言い残して逃げ出した。
悟空が「師匠はどこにいた」と問うと、八戒が「東の廊に格子戸があって、そこに閉じ込められているらしい。三日のうちに妖精が師匠を無理やり夫婦にしようとしている」と報告した。悟空が「よし、わしが直接乗り込む」と言い、小さな蠅に変化した。
羽をすばやく動かして穴の入り口から飛び込み、広間の梁に止まって全体を見渡した。東の廊へ飛んでいくと、格子戸の奥に三蔵が正座して経を念じているのが見えた。顔は青ざめているが無事だった。妖精はまだ広間で宴の支度をさせており、三蔵のところへはまだ来ていない。
悟空が庭の奥を見回すと、桃の木が一本あり、赤く熟れた桃がいくつか実っていた。「これだ」と思いつき、蠅から大きな赤い桃へと変化して枝にぶら下がった。
妖精が広間の準備が整ったと聞いて、まず庭へ出て散歩した。桃の木を見ると見事に赤く熟れた実が一つ下がっていた。「あら、この桃はいつの間に」と目を細めて手を伸ばし、ひとかじりした。
果汁が滴るほど甘い桃だった。妖精が気に入って丸ごと食べてしまうと——腹の中でいきなり何かが動き始めた。
「うっ」と妖精が腹を押さえた。次の瞬間、腹の中で棒のような何かが暴れ回り、内臓が引っ張られるような激痛が走った。妖精が「痛い、痛い」と叫んで床にのたうち回ると、小鬼たちが慌てて駆け寄った。「奶奶、どうなさいました」と問うと、妖精が「腹の中に何かいる、出てこい」と叫んだ。
腹の中から悟空の声がした。「おい妖精、聞こえるか。わしは孫悟空じゃ。師匠を今すぐ洞の外へ連れて出れば、苦しみを止めてやる。さもなくば、お前の五臓六腑を全部引っこ抜くぞ」と言い、棒でぐりぐりと押した。
妖精が泣きながら「わかった、わかった、連れて行く」と叫んだ。
妖精がよろよろと立ち上がり、東の廊へ向かって格子戸を開けた。三蔵が驚いて「どうしたのか」と問うと、妖精が苦悶の顔で「長老、少し外の空気を吸いましょう」と言い、三蔵の手を引いて洞の通路を進み始めた。
腹の中の悟空が「ちゃんと師匠を背負え」と棒で突くと、妖精が痛みに耐えかねて三蔵を背負い、足を引きずりながら上へ上へと登っていった。三百里の深さの洞を背負い上げるのは並大抵ではないが、腹の痛みがそれを上回った。
洞の口まで出ると、外では八戒と沙悟浄が待ち構えていた。「師匠」と八戒が駆け寄り、三蔵を妖精の背から引き離した。妖精が三蔵を下ろした瞬間、悟空が腹の中で一声「変れ」と唱えると元の体に戻り、腹を突き破って外へ飛び出した。
妖精が悲鳴を上げて地面に倒れた。悟空が如意棒を手に「さあ勝負だ」と構えた。
桃一つの策、五臓を制す——無底の洞に陽光差し込む時、誰が勝るか。次回に続く。