第79回 洞を尋ねて妖を擒らえ老寿に逢う——当朝の正主、嬰児を救う
悟空(三蔵のふりをして)が朝廷で国王に心肝を求められ胸を割って様々な心を見せる。正体を現して国丈と空中戦。国丈と美後が逃走。三蔵が本来の姿を取り戻す。国丈は白鹿精、美後は月宮の玉兎と判明。嫦娥が来て玉兎を連れ帰り、南極寿星が白鹿を連れ帰る。千余人の子供たちが戻り師弟は比丘国を去る。
錦衣官が「三蔵」を朝廷へ連れて行くと、昏君が「長老のお心肝を少々いただきたい」と言った。悟空(三蔵のふりをして)が「心には何種類かありますが、どんな色のものをお望みですか」と答えると、国丈が「黒い心だ」と言った。「それならば剖(さ)いて見せましょう」と悟空が牛耳の短刀を受け取って自ら腹を割くと、腹の中から血の滴る心が次々と転がり出てきた。
文武百官が仰天して顔色を失った。国丈が殿上から「これは多心(こころがたくさんある)和尚だ」と言った。悟空が一つ一つの心を開いてみせると——赤い心、白い心、黄色い心、吝かな心、名利の心、嫉妬の心、計り事の心、勝ちたい心、傲慢な心、殺意の心、狡猾な心、恐怖の心、邪まな心……実に様々な心が並んだが、黒い心はどこにもなかった。
昏君があっけにとられて「片づけよ、片づけよ」と命じると、悟空は「私たち坊さんの心はすべて良い心ですが、あの国丈こそが黒い心を持っている。信じないなら取り出して見せましょう」と言い、本来の姿に戻った。
国丈は素早く目を細めて相手を見た——「孫大聖、五百年前から名の知られた者」と思い知り、急いで身を翻して雲へ逃れようとした。悟空が筋斗を打って空中で「どこへ行く」と叫び棒を振り下ろすと、国丈は蟠龍の拐杖を振るって迎え撃った。
二十余合戦ったが国丈は次第に不利になり、一道の寒光を放って美後(美女の皇后)を連れ宮中から飛び出し、光の中に消えた。
悟空が降りてきて多官に「あんな国丈に従ってどうする」と言うと、百官が一斉に礼拝した。国王は奥の殿に縮こまって震えており、「主公、孫大聖が妖怪を退治しました」と告げると、よろよろと出てきた。悟空が「私が師父に化けて来たのです。三蔵は館驿にいます」と説明し、太宰を遣わして三蔵一行を呼んだ。
八戒が「師匠、怖くない。師兄が勝ったから礼を言いに来たのだ」と言うと、三蔵が「しかし私はこの臭い顔では」と心配した。殿前に着くと悟空が走り寄って泥の面を剥がし、息を吹きかけて「変れ」と唱えると三蔵は元の清らかな顔に戻った。
国王が「長老、妖邪を除いてくださり感謝します。あの国丈と美後はどこへ消えたのでしょう」と問うと、悟空が洞を追って調べた結果を報告した——国丈の正体は 玄英洞に住む白鹿精(白い鹿の妖怪)で、美後は月宮の玉兎(白い兔の仙女)だった。
嫦娥(月の仙女)が天宮から降りてきて玉兎を叱り「この兎め、月宮から逃げ出して人間界で狼藉を働くとは」と連れ帰った。南極寿星が白鹿の角に縄をつけてひょいと引き立てた——大王として三年もこの地を苦しめた白鹿精の正体は、南極寿星の座獣だった。
三蔵が昏君に「色欲を少なくし、陰徳を積んでください。それが最もよい薬です」と教えると、国王は二盆の金銀を路費として差し出したが三蔵は固辞した。国王・妃・百官が自ら車を押し、轿に乗って師弟を送り出した。
城の外へ出ようとすると、半空から風が起きて左右に鹅笼が次々と落ちてきた。中から子供たちの泣き声がした。護送していた城隍・土地・五方揭諦・六丁六甲たちが「大聖、お命じの通り子供たちをお連れしました」と申し上げた。城内の親たちが駆け出してきて笼の中の子供を一人一人確かめ、「これは我が子、これも我が子」と喜びの声が広がった。
人々は師弟を担ぎ上げ、市中へ引き戻して宴を設けた。あの家でも宴、この家でも席——一月ほど引き留められてから、師弟はようやく比丘国を後にした。
陰功高く積んで恩山重なり、千千万万の命を救いたり。