西遊記百科
🔍

第五十六回 神は狂い草寇を誅し、道に迷いて心猿を放つ

山道で盗賊に囲まれた師弟たちを救うため、悟空は小和尚に化けて賊を誘い出し、その首領たちを打ち倒すが、宿先の老人の息子が賊の仲間であったことで、三蔵は激怒し再び緊箍咒を唱えて悟空を追放する。

孫悟空 猪八戒 三蔵法師 沙悟浄 草寇 緊箍咒

霊台に物なし、これを清という。寂々として一念も生じず。 猿馬をしっかりと収めて放蕩するな、精神を謹慎して峥嵘とするな。 六賊を除いて三乗を悟れば、万縁すべて罷んで自ずと分明となる。 色邪、永く滅して真界を超え、坐して西方の極楽城を享けよ。

蝎子精を退治した後、師弟四人は大路を進んだ。夏の盛りの景色の中、野蘭の香りが薫風に乗って漂い、雨上がりの竹は青くそびえた。

しばらく行くと高い山が立ちはだかった。三蔵が「また妖怪が出るかもしれない、気をつけよ」と言うと、悟空が馬を叩いて駆けさせた。馬は二十里ほど飛ぶように走ってから止まった。


田地に出たところで突然「待て」という叫び声がして、路の両側から三十余人の男たちが枪刀棍棒を持って躍り出た。「通行料を置いていけ」と迫られた三蔵は馬から転げ落ちて草叢に蹲り「お大王、お命ばかりは」と泣いた。

賊の首領二人は青い顔に獠牙、目を飛び出させた風貌で、狼牙棒を振り回していた。三蔵が「出家人に金銭はありません」と言うと、賊が棍で打ちかかろうとしたとき、三蔵はとっさに「後ろから弟子が来る。その者に金銭がある」と言った。賊は三蔵を縄で縛り木の上に吊るして待った。


八戒と沙悟浄が追いついて吊るされた三蔵を見ると「師匠が木にぶら下がって秋ブランコをしている」と八戒が笑った。悟空が「賊に捕まったのだ」と状況を見て取り、一本の毛を抜いて身変わりを作り、自らは二八歳の小僧に変化した。藍色の包袱を背負って「師匠、どうしたのです」と近づいた。

賊が「包袱に路銀があると親父が言った、出せ」と迫ると、悟空は「馬蹄金が二十錠ほど」と言って包袱を投げた。賊が喜んで三蔵を降ろすと、三蔵は馬を取って一目散に逃げ出した。

悟空が「待て、三分の一は俺にもよこせ」と言うと賊が怒って棍で七八度頭を叩いた。悟空は何でもない顔で「笑いますよ、それぐらいでは」と言い、賊がさらに打ちかかると耳から針を取り出して「これを差し上げます」と言った。賊が「針など何の役に」と笑うと、悟空は針を地面に差して「持てるなら持って行ってください」と言った。

二人の賊が奪おうとするが動かない。悟空が「では老孫が打ちますよ」と言い、金箍棒を引き抜いて蟒翻身の構えで一振りすると一人が倒れた。もう一人が「貴様」と叫ぶと、もう一撃で二人とも打ち殺した。残りの賊は散り散りに逃げた。


八戒が追いついて「頭に大きな穴が二つ」と言うと三蔵が驚いて「本当に打ち殺したのか」と怒り始め、口ぐせのように「猢狲、猿め」と罵りながら死体の前へ馬を回した。「鈀で穴を掘って埋めて経を読んでやれ」と命じた。悟空に叱られた八戒が渋々穴を掘って二人を埋め、三蔵が折った青竹を香として祈った。

「二人の亡くなった強盗よ聞け。私の弟子孫悟空が打ち殺してしまったが、もし閻魔庁で訴えるならば彼の名を訴えよ。私の名は訴えないでほしい」と三蔵が言うと悟空も坟に棒で三度叩いて「お前たちに七八度打たれたが何ともなかった。つい手が出て打ち殺してしまった。訴えるなら行け。玉帝も天王も阿修羅も俺を知っている。怖くはない」と言い放った。

三蔵が「なんたる悪口」と顔色を変えると悟空は「さあ、宿を探しましょう」と促した。


夕暮れ近く、路の北に庄院が見えた。老人が出てきて宿を求めると、最初は弟子たちの顔を見て「夜叉・馬面・雷公だ」と恐れた。しかし三蔵が「皆善人です」と宥めると中へ招き入れ、素食の夕飯を出してくれた。

灯火の中で老人と話すうち、老人に息子がいること、その息子が五日前から帰っていないことがわかった。「うちの息子は打家劫道、人殺し放火の悪い者で困っている」と老人が嘆いた。三蔵は内心、悟空が殺した賊の中にいたのではと思ったが何も言わなかった。

夜中の四更頃、賊の一団が門を叩いた。老人の息子もその中にいた。息子が炊事のために後園へ薪を取りに行くと、白馬が繋いであった。妻が「取経僧が借宿している」と教えると、息子は「あの和尚たちが頭目を殺したのだ」と叫び、仲間を集めて刀を研ぎ始めた。

老人はそれを聞いてこっそり後園へ来て師弟を起こし「息子たちが来た。早く裏口から逃げなさい」と言った。三蔵は礼を言って八戒に馬を、沙悟浄に荷を持たせて夜の中を逃げ出した。

夜が明けると賊が後園へ来て、誰もいないのを見て裏口から追いかけた。東の空が白む頃に師弟に追いついた。三蔵が「追ってきた、どうすれば」と言うと、悟空は「任せてください」と棒を手に引き返した。

「打ち殺すな、ただ追い払うだけにしろ」と三蔵が言ったが悟空はすでに棒を振るっていた。賊に当たれば倒れ、触れれば死んだ。数人が逃げ延びた以外は皆倒れた。

そして悟空は「老杨の息子はどれだ」と聞くと、傷ついた賊が黄衣の者を指した。悟空は黄衣の者の首を刎ねて三蔵の前へ「老杨の逆子の首を持ってきました」と差し出した。

三蔵は馬から転げ落ちて「猿め、また人を殺したか」と怒り、立ち上がるなり紧箍咒を唱え始めた。悟空が「止めてください、痛い」と地面を転げ回っても三蔵は十数遍唱え続けた。

「もう要らない。帰れ」と三蔵は言った。悟空は頭を下げて「師匠、追い出すのですか」と聞くと、三蔵が「慈悲の心がない者を連れて行けない。昨日も二人殺し、今日は老杨の息子まで殺した。屡屡諌めても聞かない。お前は取経の人ではない」と言った。

悟空は「莫念莫念(唱えないで)」と言い残して、一声「去」と筋斗雲を翻して影も形もなく消え去った。

心に凶狂があれば丹は熟せず、神に定位がなければ道は成し難い。