第37回 鬼王、夜に唐三蔵を謁す——悟空、神化して嬰児を引く
烏鶏国の近くにある宝林寺に身を寄せた三蔵の夢に、水に濡れた国王の亡霊が現れ、偽の王に奪われた玉座と自らの悲劇を訴える。翌朝、悟空は太子の狩猟に合わせ、山神と土地神の力を借りて野獣たちを率いて彼を迎え、父王の救出という密かな願いを託されることになる。
宝林寺の禅堂で三蔵は灯りの下に座り、梁皇水懺と孔雀真経を読み続けた。三更になってようやく経典を納め、眠りにつこうとしたとき、門外から突然狂風が吹き込んできた。
淅淅と落ち葉を舞わせ、飄々と浮雲を巻く。 星斗は暗み、地面に塵が飛ぶ。 猛烈に吹いては松竹を揺らし、 純らかに過ぎては江湖の波を立てる。
灯りが明滅し、三蔵は案の上に伏してうとうとした。眼は閉じているが心は目覚めており、窓外の風の声が聞こえていた。
すると門外から一声「師父」と呼ぶ声がした。顔を上げると、そこに水に濡れた全身の人物が立ち、目から涙を流しながら何度も「師父」と呼んでいた。
三蔵が「お前は魑魅妖魔か?私は清浄な僧で欲念は持たぬ。弟子たちは降龍伏虎の力があり、見つかれば粉砕されるぞ。早く消えろ」と言うと、その人物は「私は妖魔ではありません」と答えた。
「では何者か、深夜にここへ来た理由は?」三蔵が促すと、その人は顔を上げた。冲天冠をかぶり碧玉帯を締め、赭黄の龍袍に雲頭の靴——まるで皇帝の姿だった。
「どこの国の陛下でいらっしゃいますか」と三蔵が問うと、国王の霊魂は涙を流しながら語った。
「私はここから四十里ほど西の乌鸡国の王です。五年前の旱魃に苦しみ、三年斎戒して雨乞いをしていたとき、鍾南山から全真の道士がやってきて雨を降らせ私を救ってくれました。喜んで彼と八拝の兄弟の契りを結んだのです。二年後の春、御花園で彼と散歩しているとき、八角琉璃井のそばで彼は突然心が変わり、私を井戸に突き落として石板で蓋をし、芭蕉樹を移し植えました。気づいたときには井戸の中で三年が経っていました。今は一匹の落井伤生の冤屈の鬼です」
三蔵は肝を冷やし「ではその怪物が今も玉座に?」と問うと「左様です。私の変化に完全になりすまし、文武百官も后妃も見破れません。私の太子は宮中にいますが、母后と引き離されて三年、怪物は母子が話し合って秘密が漏れるのを恐れているのです」と国王は答えた。
「なぜ陰司の閻魔のもとへ訴えないのですか」と三蔵が問うと、「都の城隍も海龍王も東岳も閻魔もみな怪物の仲間同然で、訴える先がないのです。夜游神に聞いたところ、あなたの弟子に斉天大聖がいる。彼に頼めば怪物を降せると言われてここへ参りました」
そう言って霊魂は金箱入りの白玉圭を置いた。「これが証拠の宝物です。怪物は私に化けながらも、これだけは複製できなかった。太子に見せれば信じるでしょう」
三蔵が「わかった、弟子に頼もう」と言うと、霊魂は「では后宮へ戻り、一陣の風で皇后の夢に入り、すべてを伝えます」と告げて消えた。
三蔵は驚いて飛び起き「徒弟よ!」と呼んだ。眼を覚ました八戒が「なんですか、この夜更けに」とぼやき、悟空は跳ね起きて「師匠の夢は思い煩いから来るものです」と言ったが、三蔵が夢の内容を話すと悟空は「なるほど、仕事が舞い込んできた」と顔が変わった。
「妖怪が位を奪ったとなれば、これは老孫の得意な仕事です」と悟空は宝林寺の扉を開けた。階段の上に金箱が置かれ、中に白玉圭が収まっていた。
翌朝、悟空は師匠に赤い金漆の小箱を作って玉圭を入れ「これを手に持って正殿で経を読んでいてください。太子が狩りに来たとき私が引き合わせます」と言った。
悟空は一飛びで空に上がって乌鸡国を見渡した。確かに城があり、よく見れば城内に妖気が漂っている。戻ってくると師匠に「太子が今日の早朝に三千の人馬で狩りに出ます。私が太子を引き合わせましょう」と言った。
弟子たちが寺で待つ間、悟空は城外の山道に降りて山神・土地を呼び出した。「太子が狩りに出るが手ぶらで帰っては見せ物にならない。野獣を四十里の道に並べてあげてくれ」と頼んだ。山神たちは陰兵を使って風を起こし、野鶏・山雉・角鹿・肥獐・狐・兔・虎・豹・狼など百千余りを左右に並べた。
太子の一行が通ると道の両側に野獣が溢れていたので、鷹や犬を使わずとも手で捕まえることができた。「これは太子の洪福だ」と兵士たちが歓声を上げた。悟空は空中からそれを見て「老孫の神功なのだが」と笑った。
太子が凱旋した帰り道、宝林寺の前を通ると一人の僧が境内に座って経を読んでいた。太子は入って礼をし、悟空(小さな和尚に変化して箱の中に潜んでいた)が「太子よ」と呼びかけると、太子は驚いて跪いた。悟空が箱から出て、国王の霊魂が語ったことを話し、玉圭を見せた。
太子は「父上の形見の品だ……」と息を呑んだ。「宮に戻って母后に確認してきます」と言い、急ぎ城へ向かった。
太子は後宰門から宮中へ忍び込み、錦香亭で涙をこらえている母后と会った。「母上、三年前と今では父上に対するお気持ちが同じですか」と問うと、皇后は声を落として「あの人は三年前はあんなに温かかったのに、今は冷たくなってしまった……枕元で聞けば、老いて気力が衰えたと言うだけで」と泣いた。
太子は玉圭を取り出した。皇后は見るなり「これは国王の宝物!」と涙をこぼした。太子は外の僧の話をすべて伝えると、皇后は「すぐに頼みなさい」と言った。太子は急いで宝林寺へ戻り、悟空の前に膝まずいた。
「師父、母上も確認しました。あれは確かに妖怪に違いありません。どうか父王をお救いください」
悟空は「明日の朝早く城へ行こう。ただし今夜はまず御花園の八角琉璃井から先王の遺体を引き上げる仕事がある。八戒、一緒に来い」と言った。