第21回 護法、庄を設けて大聖を留む——須弥の霊吉、風魔を定む
黄風大王との戦いで三昧神風に目を痛めた悟空は、護法神の化けた庄で眼薬を授かる。太白金星の導きで小須弥山の霊吉菩薩を訪ね、飛龍宝杖の力で黄風大王の正体・黄毛貂鼠を捕らえ師匠を救い出す。
五十人余りの敗残の小妖たちが破れた旗や太鼓を手に洞へ駆け込んで「大王、虎先鋒があの毛顔の和尚に追われて東山の坂を駆け下りていきました」と報告した。老妖が顔を上げると、また別の小妖が「大王、虎先鋒がやられました。毛顔の和尚が死骸を引きずって門前で戦いを挑んでいます」と伝えた。
老妖は怒りに燃えて鎧を身に着け、三股の鋼叉を手に取って洞から躍り出た。金の兜が日差しを受けて輝き、烏金の鎧に淡黄の袍を羽織り、金の瞳が電光のように閃く——黄風山の黄風大王だった。
悟空と大王は互いに打ち合った。叉と棒がぶつかり合うこと三十合、勝負がつかない。悟空が「身外身」の手段で毛を一摑み噛み砕いて吹き上げると、百余りの小悟空が現れて大王を取り囲んだ。大王は焦り、巽の方角に向かって口を三度大きく開けた——
冷冷と飕々と天地が変わり、影も形もない黄砂が渦を巻く。 林を抜け嶺を倒し松と梅をなぎ倒し、土を播き塵を舞わせて山を崩す。 老君も炉を顧みられず、王母の裙の飾りも風に散乱する。
この一陣の三昧神風が巻き起こると、悟空が変じた小行者たちは空中でぐるぐると纏車のように回転して棒も振るえず体も寄せられない。悟空は毫毛を収めて独り立ったが、大王が顔に向けてもう一口黄風を吹きかけると、火眼金睛がきつく閉じてしまい開けられなくなった。悟空はやむなく退いた。大王は風を収めて洞へ戻った。
八戒が谷の窪みで馬を引いて伏せていると、風が止んで空が晴れた。悟空が「ひどい風だ!俺でも立っていられなかった。あの妖怪の叉の腕前は老孫と互角だったが、あの風には勝てない」と語り、目が痛んで涙が流れ続けていると訴えた。
「眼科の先生でも探さないことには師匠の救出どころじゃない」
日が暮れかけると、道の南の山裾に犬の吠え声がして灯火が見えた。二人が近づくと農家があり、老夫が数人の農民と一緒に出迎えた。悟空が事情を話すと老人は丁重に招き入れ、胡麻飯を振る舞った。悟空が眼薬を尋ねると老人は「三花九子膏」という秘伝の薬を取り出し、玉簪で少量すくって悟空の目に点じた。「目を開けず心を静めて眠りなさい、明朝には治る」
翌朝、悟空が目を覚ますと昨日より百倍明るく見えた。しかし周りを見渡すと、家も窓も消えて二人は古い槐の木の下の緑の草の上に寝ていた。木の上に紙の短冊が貼ってあり「此れ是れ護法の伽藍の点化なり。眼薬で君の眼を癒し、怪を降す心に怠りなかれ」という四句の偈が書かれていた。
「護法神どもめ、また芝居を打ちやがって」と悟空は笑い、「でもまあ、薬を点じてくれ飯まで食わせてくれた。感謝すべきだな」と認めた。
悟空が「師匠は今頃黄風洞の定風桩に縛られて泣いておられる。今日中に決着をつける。俺がもう一度洞へ偵察に行く」と言い、蚊に変じて洞に忍び込んだ。後園では師匠が確かに木の杭に縛られて悲しみの涙を流していた。師匠の頭に止まって「師匠、老孫はあなたの頭の上にいます。必ず今日中に妖怪を捕まえてお救いします」と耳元で囁いた。
屋梁の上で老妖の話を聞いていると、令旗の小妖が「あの長耳の和尚は林の中に見えましたが、毛顔の和尚の姿は見えませんでした」と報告した。老妖が「あの風で吹き殺されたか、あるいは援兵を呼びに行ったのかもしれない。俺の風勢を定められるものがいるとすれば、霊吉菩薩くらいだ、他には怖れるものはない」と言った。
悟空は「しめた!」と喜び、本来の姿に戻って林へ戻った。
「八戒、あの妖怪が自分で白状してくれた。霊吉菩薩というお方がいれば風を封じられるそうだ。どこにいるか聞いてくる」
ちょうどその時、道の脇から一人の老人が現れた——白い髭と白い眉、背筋は曲がっているが足取りは確かで、まるで寿星のような風格だった。八戒が「道を知っている人に聞こう」と言うと悟空が礼をして「お爺さん、霊吉菩薩はどこにおられますか」と尋ねた。老人は「南へ三千里ほど、小須弥山という山があり、そこに菩薩の道場がある」と答えて南の方を指した。悟空が振り返ると老人は清風とともに消え、路傍に短冊が残っていた。「太白金星・李長庚が申し上げる——須弥山に飛龍杖あり、霊吉は仏の兵を受けた者なり」
八戒が「こないだ師匠を助けに来た金星じゃないか!」と空に向かって拝した。悟空は「お前はここで馬と行李を守れ。老孫が小須弥山へ頼みに行ってくる」と言い、筋斗雲に乗って南へ一飛びした。
悟空が小須弥山に到着すると香煙と鐘磬の音が漂い、道人が念仏を唱えながら出迎えた。「霊吉菩薩の道場はここですか。唐僧の弟子・孫悟空が一件をお頼みに来ました」と伝えると、菩薩が袈裟を整えて迎えに出た。
「師匠が黄風嶺で黄風大王の難に遭っています。菩薩のお力でお助けいただきたい」
菩薩は言った。「私は如来の法令を受けてここで黄風怪を押さえていました。以前に捕らえた時に命を助けて山に帰らせたのですが、今また唐僧を害するとは法令に背いた。これは私の責任でもある」と言い、飛龍宝杖を手に取って悟空とともに黄風山へ向かった。
「大聖、私は雲の中で待ちます。あなたが降りて妖怪を誘い出してください」
悟空が黄風洞の門を棒で叩き割って「師匠を返せ!」と叫ぶと、老妖が鋼叉を手に飛び出した。数合打ち合ったところで老妖が巽の方へ向き直り口を開けようとした瞬間——空中から霊吉菩薩が飛龍宝杖を投げ下ろした。宝杖は一条の八爪の金龍となって妖怪の頭を掴み、崖の石に二三度叩きつけると、本来の姿が現れた。黄色い毛の貂鼠だった。
悟空が棒で打ち殺そうとすると菩薩が止めた。「命は助けて如来のもとへ連れていきます。この者は霊山麓の得道した老鼠で、琉璃盏の清油を盗んで灯を暗くした罪で逃げ出してここで精怪となったのです。如来は死罪ではないと見通しておられ、私に管理させていたのですが、今回は唐僧を陷害した罪もあるので霊山で裁きを受けさせます」
悟空が礼を述べると菩薩は貂鼠を連れて西へ帰っていった。
八戒に「洞の中の妖狐や山獐を片付けたら師匠を助け出せる」と告げ、二人は黄風洞に突入した。一窩の小妖を鈀と棒で打ち払い、後園へ駆けつけると師匠が木杭に縛られたまま泣いていた。縄を解くと三蔵は「どうやって妖精を降したのか」と問い、悟空が霊吉菩薩を請うた経緯を話すと師匠は合掌してひたすら礼を申した。三師弟は洞の中の素食で腹を満たし、西への大路へと向かった。